吉野家の牛どん
(9月8日)


  最近、北京に吉野家チェーン店の16店目ができた。私が住んでいる処から郊外バスに乗って北京に出るとき、ちょうど終点のバス停の前に、吉野家があるのでよく利用する。中国の料理は一人では食べ難いし、店にも入り難いことは何回か書いたが、吉野家のようなファーストフード店は本来一人分の料理が基本だから、味が合いさえすれば何の問題もない。ファーストフードも日本料理も、西洋料理も、一人で食事できるのだが、中国料理だけが駄目なのである。ファーストフードは中国語で"快餐"と書く。中国料理にも"快餐"があるが、これは一人で食べられる。

  吉野家の牛どんであるが、トレイに敷く紙を見ていたら、"まぜまぜして食べると、もっと美味しくなるよ!"と キャッチコピーに書かれていた。"徹底撹拌"とも書かれていた。これはどんなことかとよく見てみると、撹拌の理由が書かれていて、食べる前に"徹底撹拌"して、汁とご飯をよく混ぜると、牛どんの味が最後まで残って、美味しく食べられる、と言うものであった。これはご飯を美味しく食べる一つの方法ではなかろうか。どうも中国では、ご飯を美味しくして食べたい、と言う発想とかこだわりが無いように思う。

  日本にも中国にもチャーハンがあって、これはご飯主体の料理である。日本ではチャンとした料理として、どこでもチャーハンが食べられるが、北京辺りでは美味しいチャーハンを食べるのは日本よりずっと難しい。もしかしたら中国のチャーハンはチャンとした料理のうちに入らないのかもしれない。その点、吉野家のキャッチコピーは、この様にすれば、ご飯を美味しく食べる方法もありますよ、と言っているようで、新しいご飯の味わい方の、中国での初めての"提言"かもしれない。チョッと話が大げさになり過ぎたかもしれないが、今まで中国にはご飯を美味しく食べる方法が無かったように思う。勿論、日本の丼物の様に、ご飯に適当な量の汁を染み込ませて、ご飯を美味しく食べさせる料理は無かった(ぶっ掛けご飯のような食べ方はあるが)。

  吉野家は今のところ、結構流行っている。味は日本的な味で、玉ねぎの甘味と醤油の味の利いた味であって、中国的な味と違うのであるが、中国人にもこの味や、食べ方が受け入れられたのだと思う。確かに吉野家の牛どんのご飯は、ご飯も料理のうちと言う自覚があるせいか、美味しく炊かれていた。ご飯を美味しく食べる為の汁の量も適当であった。

  しかし"徹底撹拌"はよくないのではなかろうか。"徹底撹拌"してしまうと折角ふっくらと炊かれていたご飯が粘ついて、ふっくらさがなくなってしまう。ご飯を美味しく食べる為には、撹拌するにしても、撹拌の方法にまで拘って、"優しく混ぜて"とか書いて欲しいものである。それに"徹底撹拌"によって肉と玉ねぎとご飯が、徹底的に混ってしまうとすると、これは見た目にも良くない。日本料理は食べ方の見た目にも拘るはずである。元々牛どんはあまり撹拌する必要もないように思うのであるが。

  ほかに吉野家で気がついた事は、味噌汁の味が薄い、そして値段が高かった。この湯(スープのこと)があまり美味しくなくて高いのは、日本人としては、このことによって料理の評判が悪くってしまうとすると残念である。それからご飯に少しぬかの臭いがしたことがあった。日本料理では、ご飯にも拘って美味しく食べる方法あることを知ってもらう為にも、必ず米をよく洗うと言うことを実行してもらいたいものである。日本語では米を洗うのに、米を研ぐと言うくらいであるから。