シルクロードの長距離バス

  酒泉から敦煌に行くのに、やはりバスで行くしかないと考えて、翌日のバスの切符を買いに行った。夕方になっていたのだが翌日の切符を買うと、なんと座席番号は一番であった。切符は電算機で発行されていた。この番号を見ると、切符を、前もって予約する人はあまり多くななさそうであった。バスの発着所では、制服を着た女性職員が、人数を確認して書類に書き込んでいたが、出発してしまうと、もう全く別の運営方法になって、個人営業のバスの様になってしまった。

  出発時は8割くらいの乗車率であったが、出発すると直ぐにバスを止めて乗り込んでくる人が表れた。乗り込んで来る人は農民が多かった。髪がぼさぼさで髪を砂でまぶしたような人、大きなづた袋を担ぎ込んでくる人、布団や中華鍋を持ち込んでくる人もいる。工事用の鋼鉄製ワイヤーも持ち込んでくる。収穫した野菜を運んで貰う人はバスの屋根に担ぎ上げていた。途中から乗って途中で降りる人は、車掌と値段の交渉をする。電算機による乗車券の発行が全く役に立たない世界であった。

  走り出すと早速煙草を吸い出す人がいる。一応表示には禁煙と書いてあるが、煙草の煙はもうもうと立ち込める。運転手自らが吸っている。何時もの癖で、痰を吐かずにはいられない人がいるし、煙草の吸殻を床に捨てる人もいる。そのうち床に捨てた煙草の吸殻から煙がモウモウと立ち上り出した。さすがに車掌が叩き消したがバスは悠然と走っていく。

  左手に雪を被った山が微かに見える。あれは祁連山脈かもしれない。曇っていたのでハッキリ見えないが意外と近く見えた。遥か彼方にラクダが走り回っているのが見えた。じゃれあっているラクダを見たのも始めてであるが、あれは野生のラクダなのかもしれないと思った。もし野生のラクダを見たとしたら、貴重なものを見たことになる。

  やっとのことで8時間掛かって敦煌の街に着いた。後から気が付いたのだが、私の乗ったバスはローカルバスであったのかもしれない。別にもっと速い快速バスが走っているらしいかった。なにしろこのバスで酒泉から敦煌まで行った客は、私を含めて三人しかいなかった。
快速バスに乗れば、もっと快適で速く着いたかもしれないが、埃だらけのおんぼろバスであっても、私が乗ったバスはなかなか面白かった。