
アンダンテ
息をつく間もない時間(とき)の流れが
永遠に続くかと思われて耐え難い毎日を
なおも逃げ去らず前のめりに風に向かっていると
ふと訪れる、凪の静かな一日
全てが報われ、流れ出す旋律は優しい
自分の身体が次第に薄らいでゆく
あるいは午後の港の波のささやきの中に
あるいは小さな庭に降り注ぐ陽光(ひかり)の中に
様々な柔らかい表情が微風と織り成すハーモニー
流れ出る、四重奏(カルテット)、協奏曲(コンチェルト)、そして交響曲(シンフォニー)
哀しいアダージョほどはゆっくりでなく
楽しいアレグロほどは速くでなく
言葉は要らなくなり、目を閉じてさえも
やはり変わりない風景が見える
そして自分がそれに包まれていると感じられる
そんなひと時の後に再び風は強くなってゆく
人は、あるいはボラードから、あるいはベランダから
ゆっくりと立ち去ってゆく、風に向かうため
途切れ途切れでも必ずやって来てくれる
風に向かう人にはきっとやって来る
哀しいアダージョほどはゆっくりでない
楽しいアレグロほどは速くはない
そんな一日が
(1984.2.28)