巡礼

初夏の陽光が目を射る
日に日に深さを増してゆく梢の緑

何の前触れもなく奪われたものが
黄色い蝶となって目の前を優雅に舞う

戸惑いと、さらに
喜び以外の全ての想いが混沌とした液状の心

蹴飛ばされたことを、ただ
ひたすら隠し通そうとしただけのことだ

ただ隠れ続けていた―――
ただ、それだけのことだ

時間という者は、冷酷で
同時に、おどけた踊りに夢中になる

物理的現実が無意味であるように
意思というものも、もはや意味はない

今描いている絵は
生の疑問そのものであるのだろう

砂浜をなめる透明な波は穏やかで
微風のようなざわめきを届けている

(甲高い笑い声が聞こえなかったか)

水平線から薄い白布のような月が昇る
諦念ではなく、慰安である、と嘘をつく

(死滅すべき人種というのはあるのだろう)

逃亡者としての日々に縋っている
立ち止まることが恐ろしい

(いずれ焼き殺されるのなら)

       (2017.5.21)



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