港

ワッフルの模様の如く
マス目に仕切られた土地のそれぞれに
とてつもなく古びた小さな平屋が並んでいる

台所と思しきガラス窓に映る緑色の洗剤ボトルの影
白い手ぬぐいやガラスコップの影
ほぼ半世紀の時間が棲み付いている

   別々の時間に住むことができるとすれば
   そもそも比較などという概念はない

どこからともなく微かな鉦の音がする
意味を為す、ほとんど唯一の音がする
生命ではない、存在としての証

   この地に意思というものがあるのか
   選択を強いるということがあるのか

港内に浮かぶ舟はまどろみに揺れている
舫い綱の伸び縮みの中で
無防備な姿を晒し、揺れている

   ノスタルジックな形容詞を乱発し
   あたかも原風景であるかの如く切り取ること

獣のようになまあたたく
それでいてウサギの毛皮のような香りに包まれ
そこが荒野でないことを物語っている

   僕は本能的に、それらを迂回した
   纏わりつくような
   自分という存在を映し出すそれらを

   誰でもいい、はずだった
   しかし実際は、
   選ばない者なら、誰でも、だったのだ

その港は
湾に突き出た小さな半島にあった
次に訪れるのは冬であろう

    (2017. 5. 3)



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