テーブルの上におかれた薄手の茶碗
柔らかに差し込む午前の、仄白い陽光
いかなる雄大な景色にも勝る懐深い風景
多くのものは既に遠く
残されたものは少ないが
手に馴染むものばかり
残されたもの・・・
それは、私自身でもある
もう、ここには誰も居ない
かつて、あれほど望んでいた孤独がここにある
激しい後悔や焦燥は今も潜んでいるが
私はそれらとの共生の仕方を心得ているらしい
幸福とは言える筈もない日常の中で
微かな宝石を拾い歩くこと
満たされ、あるいは傷つく私自身の心を慈しむこと
雲散霧消してしまった時間はどこにも刻まれていない
記憶にさえも・・・?
おそらく、塗りつぶされた下には未だ在るだろう
この茶碗の中に潜んでいるもの
この指先から腕を通って逃げ出してゆくもの
あたかも白い湯気のように消えてゆくもの
継ぐ
紡ぐ
拒む
背負う
互いに戯れ合うような陽光、そして時間
己の魂そのものではなく
森羅万象と交信を行うという日常
弓なりの感情がせり上がってくる
どこまでも平坦な生活というものに
私は生かされているらしい
ひたすら待ち続けてきたのかもしれない
創造というものに背を向けること
何ものかを懐胎し、産み落とすこと
或いは―――
滅びることと引き換えにしか得られぬもの
わたし、という他者
神格を有するその者に帰依すること
そして、没すること
(2016. 6. 7)