引き伸ばされた陽光が運河に入り込み
湾へと続く、ぶれのない曲線をなぞっている
象徴という概念は消えた
かつてそこに在った貯木やタールの香り
友人への貸しは現在も生きているが
それはまだ仕舞って置こう
満たされていた街は、今
朽ちはじめている
コンクリートもひび割れて貝をまとい
線は凹凸によって所々ぶれ始めている
戦後に生まれ、最も長く生き長らえたのは
人間自身の肉体かもしれない
いや、寄生対象として生かされてきた、とも言える
無数の監視によって
新たな進化がゼロから開始されつつある
私たちが解き放ったエネルギーを吸収して
逃れるためだけに縋りついている―――
我々が生かされている意味はそのためにのみあるらしい
もはや肉体は時代遅れの装置でしかないが
停止させる時には至っていない
運河を泳ぐ銀色の魚たちは泥を食べている
生き残るための模索
私は再び見なければならない
生と同一の空間に存在するものの移ろいを
強い風が運河の水面を細かく波立たせるとき
私の体温は吸い取られてゆく
苦しい―――、ただ苦しい
逃れることは可能であっても―――
もう既に私には人間社会が見えない
記号化された種族以外の何ものでもない
(2016. 6. 5)