夜

一つ目を消し
二つ目に取り掛かる

その間に棄て去られた時間など
大した損失ではない

深夜1時
猫が私の膝を求めてやってくる

彼女の腰を指先でこすると
その翠の目は、うっとりと宙を漂う

生を飼い慣らす―――
都市とはそういうもの

窓外の闇と街の灯りが踊っている
ゆったりと、互いを確かめるように

乱雑なテーブルに置いた和酒のグラス
透明で貴い時間が眠っている

無防備な哀愁が日々を包むことは
純白の諦念をまとって暮らすことではないか

結局のところお湯を沸かす
太古の頃からずっとそうしてきた

自分が人間であることの安堵と
周囲が人間であることの幻滅

体感する時間というものが消え
携帯端末の中で投売りされている

人工知能に奪われてゆく労働
仮想空間が生き続けるためにのみ必要な実空間

より上質なコピーがあればよい
創造することは不要になった

二つ目を消し
三つ目に取り掛かる

私はある儀式を思い出す
北風が窓を揺らし始めている
この部屋を出る時が来たようだ

    (2015.10.25)



Copyright(c) 抒情詩のページ 葉擦れの地、Digitalize  Author:Shionagi_buchi(汐凪ぶち) Since:2015 All Rights Reserved. Design by http://f-tpl.com