折り重なるようにして
次々と砂浜を這う波が
掌を包んで通り過ぎ
何物かを奪い去ってゆく
なだらかに渦巻く透明な水
その中で砂粒が巻き上げられる
まるでピアノエチュードのような
さらさらとした音と共に
水の上
やわらかい掌が
何ものかを諦め
何ものかを纏おうとしている
取り戻さないのか
それとも
いずれ戻ってくる、と
ただ微笑しているのか
うちふるえる五感に立ちすくみ
穏やかな余韻を噛みしめる
波濤のリズムと同期し
高まってゆく生の温もり
振り返ると急峻な岩の斜面の陰から
黄色く強い日差しが輝き
年月を経て黒く変色したコンクリートの突堤を
その影の中に抱いている
ふと気付くと、いつの間にか
ぬれた掌が
僕の怯えを
そして、不安を包んでいた
(2015.5.27)