別離

僕は、久方ぶりの青い海に挨拶をした
けれども、白く輝く砂は
ただ遥か彼方の雲を見やるだけだった

夏は終わったのだ

失われることなど無い筈の時間までが
風にさらわれてしまうなどとは
まったく思いもよらないことだった

じわじわと、しかも容赦なく押し流す力の強さ

かつて何度も座ったベンチは皆
上板だけを残して砂に埋もれ
虚ろな眼差しを宙に向けていた

心地よく、静かに吸い取られてゆく生命

薄い光が砂粒を輝かせている
在るべきところに在れ、と
海が語りかけてくる

ディンギーの白い帆がはためいている

僕は見た
銀色の指輪の鈍い反射と
けだるい眼差しを

抱き合っていた雲が互いに身を引き
白い陽光が降り注ぎ
海面へ桟橋を架けている

僕は、それを渡る

     (2013.9.30)



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