かつて黒い水がよどんでいた港は
透明な翡翠色の水を湛えている
一羽の白鳥と、数羽のコガモ
そして釣り糸を垂れる者
穏やかな波長のうねりが
港全体を包み込んでいる
時折急ぐタグボートの航跡とて
穏やかなうねりに宥められてしまう
海は、湖でも川でもない
その広さ、そして深さ、豊かさ―――
岸壁に佇むと、感じられる
魚たちが水中で翻り、騒ぐのが・・・
かつては鼻をつく刺激臭があった空気も
軽い潮の香りだけが風に漂っている
それにもかかわらず
私は得体の知れぬ胸苦しさをおぼえる
この翡翠色の水のずっと底に眠る復讐の企み
この穏やかな波長のうねりが時折競り上がる様
じりじりと牙を剥きはじめるかもしれぬ
じりじりと呑み込もうとしているかもしれぬ
ひた、ひた、と静かに音をたてて
港内は穏やかにたゆたっている
(2006.12.18)