水彩

白いパレットに置かれた絵具が乾く―――
それを待って、筆をとる

透明なビニールのバケツから
筆の毛で水を運ぶ

空は若緑を薄めた色に高く息づいている
大気は夏を予感しているかのようにきらめいている

ひび割れた半円形の絵具が水に潤い
次第次第に滲んでゆく

それを覗き込んで枝垂れた梢が
息を呑んで見守っている

「色を使わないでください」
あなたは、そういう目をしていましたね

今日はかすかな南風です
輪郭を滲ませ、目を細めさせる陽気です

膝の上に広げた画用紙に
僕は、そっと色水を沁ませる

ああ、あなたはいまどこにいますか?
どこで、目を細めているのですか?

この画用紙へ染み込んでゆく午後の陽射しは
まるであなたの溌剌とした言葉のようです

僕は今、描こうとしているのです
私の言葉では描くことのできぬ、あなたの言葉を

     (2005.5.28)



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