ガラスの中の呟き

うす青いガラス細工の中に
凍りついた呟きがうずくまる

(私は深い眠りにつく者
 この眠りを覚ますことができるのは
 ただひとりだけ)

私はそのガラスを磨く
そのひとりが私であれかし、と

ほんのかすかな囁きも聞き漏らすまい
どんな小さな微笑も見逃すまい

お前を目覚めさせる鍵は何?
日の光の当たる角度か
それとも或旋律か
それともお前を包む掌の感触か
それともお前にキスする唇か
それとも愛しんだ年月の長さか
せめてヒントのひとつなりを囁いてくれ

ガラスの中に潜むその呟きを
美しく花開かせることができるならば
ああ、この凍りついたペンも溶けだし
再び走り出すような気がするのだ

私は磨き続ける
ガラスよ溶け去れ
お前の言う
「ただひとり」であれかし、と

   (1999.12.26)



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