
岬
波しぶきが作る泡は
生における人間の敗北を思い知らせ
弓なりの砂浜に忍び寄る波は
通い合うべくもない抱擁の哀しみを思わせる
私の怯えきった魂は都会へと後ずさりしようとする
何物も生まれぬ傍観者を強要する夜へ・・・
哀しむことを意識する己を意識するという
果てしない収束の中へ・・・
己以外のものを憐れむことの不能は
私をして目障りな人間の絶滅を願わせるが
このようにしてのみ
人間は滅びてゆくのだと気付く
崩れるかと見える波しぶきは再び海へと合し
慄えるハマボウフウは歓喜にわななくが如く見え
垂れこめた雲は私を閉じ込め
息苦しくさせる
ふとこぼれた鋭い光の剣は私の眼に突き刺さり
思わず瞼を閉じたが、それでも眩しく
両手をかざしてそれを防がねばならなかった―――
何故逃げねばならないのかと叫びながら
既に私は己の肉体から逃げ出していた
そして見送っていたのだった
生ある者として帰りゆく己の姿が
次第に小さくなってゆく、その背中を
(1989.12.16)