崖下の小舟

鏡に映る己が憔悴の顔をしばし見つめ
断崖にただひとつ建つ掘立小屋の中
疲れきった身体を汚れたベッドに横たえ

窓からは、これは風だ、そうに決まってる
何処からか、海からだ、そうに決まってる
きらきらと、こっちへおいでと誘う海原

小舟は崖の下に、波に揺られて・・・
海は水なのだから光の宝石をきらきらと
あたりまえのようにも、夢か幻のようにもたゆたい

鏡に映る暖かさに満ちた海面をしばし見つめ
遥かに広がり、揺れる粒子の戯れの中
浮き上がるほどの身体を光のベッドに横たえ

小舟は崖の下、波に揺られている
飛び乗ろう、この窓から
鳥のように飛べばいい!

きらきらと、己が美しさを誇らしげに海原は
窓からは、楽しげにはしゃぐ風は
崖の下、波と戯れてうっとりと眠る小舟は・・・

鏡に映る己が憔悴の顔をしばし見つめ
断崖にみすぼらしくも建つ掘立小屋の中
疲れきった身体を汚れたベッドに横たえ

   (1985.3.24)



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