生の没落

時の逃走するを追いかけて息を切らし
常に瞬間と静止の中に沈黙の焦燥を残したまま
がんじがらめの縄は次第に肌に食い込んでゆき
深くゆっくりと下りてゆく、無限の圧力の中へ
苦痛の群れて乱舞する中に見え隠れする
生気に満ち満ちたリズムで踊る顔、顔、顔・・・
目が音を聞いているのか、耳が姿を見ているのか
感覚の転倒は既に官能の泥に塗りたくられている
ぴしりと音立てて破れた皮膚の丸みを帯びた傷口では
黒く固化した血の中でまるまると太った蛆が蠢(うごめ)く
呻きながら失せてゆく光も搾り尽くし
生へ己を繋ぎとめる手摺を求めて喘ぐ唇は半開きのまま
哀れ、復活のない永遠の密室に閉じ込められて
生活という単調な時間の大河に破れた者が落ちてゆく

    (1982.11.22)



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