言い伝え

灰色に病んだ人は倒れてばらばらに砕け
その破片は再び寄り集まって這いずり起き
この情緒の国に片手をかける

その浜辺にはふかふかの白い雪
やつれた掌はその中にさくりと沈む
そのあたたかい手ざわりに彼は微笑する

岸辺にふるえる枯れアシは彼を見守り
雪とともに波に染み、溶解する彼を見守り
その国人のか細い調べを伸び上がってうたい
灰白の天に爪先立って線となる

この国に流れ着けば死ななければならぬ
青白く溶け去った後に残されたものは
砂の中の黒い石かとも見えるしじみ

溶け去った人はここに到り
ついに無の音楽と転生し
打ち寄せる波も、もはやその脇を戻り

ああ、その国は何処にあるか
かつて繁く出ていた渡しもさびれ
船頭は黙して私に語らず
波に尋ねてもただ私を噛むだけで・・・

ああ、かの街に生きられぬ者の行くところ
その国は何処にあるか

   (1982.4.4)



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