変わらぬ想い 〜長森〜               いつからだろう?         私が”彼”を見つめるようになったのは・・・                       小さい頃からずっと一緒で・・・          いつでも一緒に遊んで、笑い合って・・・                      友達と言うより、兄妹のように思っていた・・・               それが変わったのは・・・                   ・                   ・                   ・                   ・                   ・          ”お前ら、いつも一緒で恋人同士みたいだな”         同級生の言葉・・・ショックだった言葉・・・       自分の浩平に対する”好き”に変化が現れた言葉・・・                   初めは戸惑った      それまで をそんな風に見た事など無かったから・・・               でも、すぐに確信した       浩平への想いは兄妹や友達の”好き”とは違っていた事を・・・          それでも、私は浩平に対して普通に振舞った          浩平は、それを望んでいないと思ったから・・・                   ・                   ・                   ・                   ・                   ・                   そう・・・私はあの時から、自分を偽り続けていた            でも私は、それでも良いと思っていた            私は、浩平が幸せなら嬉しいから・・・              だからいつもこう言った・・・            ”浩平にはしっかりした人が必要だよ”         浩平が早くいい人を見つければ、私もきっと浩平を諦められる              そう自分に言い聞かせて・・・       だから、せめてそれまでは浩平の面倒を見ていたかった・・・               それだけで幸せだから・・・           例え、それが自分を偽っていたとしても・・・                   ・                   ・                   ・                   ・                   ・            私は夢でも見ているのだろうか?           その日、私は浩平から突然告白された          正直、嬉しさよりも驚きの方が勝っていた          それでも次の瞬間には答えを導き出していた              ”う、うん・・・いいよ”          私の小さな時からの、変わらない気持ち・・・                それを浩平に返した            しかし浩平は一瞬、戸惑った顔をした                 今思えば、それは拒絶の顔だったのかもしれない・・・     だけど、その時の私は浩平のそんな表情に気付くほどの余裕は無かった            私は、その場からすぐさま駆け出した     恥ずかしくて、とてもじゃないけど浩平の顔を見ていられなかったから                            ・                   ・                   ・                   ・                   ・          私は、浩平が私を避けているのを感じていた・・・                             何故だろう?                何度もそう考えた              ・・・ううん。違う・・・                        本当は気付いていた・・・         あの告白は、いつもの住井君達の遊びだったんだ・・・      浩平も、私だったら冗談だと気付いて、軽く流してくれると思っていたんだろう   それなのに、私は勝手に勘違いして、皆の前で告白を本気で受け取ってしまった・・・            私は、浩平を傷つけてしまったのかもしれない・・・              それでも、私は恋人として振舞った              少しでも、浩平と恋人でいたかったから・・・               浩平が、”別れてくれ”と言うまでは・・・              勝手な事だとは分かっていたけど・・・                  それでも、私は・・・                                            ・                      ・                      ・                      ・                      ・                            クリスマス・・・                 私は、浩平と一緒に遊ぶ約束をした            学校から帰ってからも、楽しみでしょうがなかった          例えそれが、浩平にとってはつまらない時間かもしれなくても            30分前には、待ちきれずに約束の場所で待っていた                           浩平が来るのをずっと、待っていた・・・                   そう・・・ずっと・・・              ・・・約束の時間になっても、浩平は来なかった                   それでも、私は待ち続けた                  何時間も・・・寒い空の下・・・                    浩平の家に電話をかける・・・                      誰も出ない・・・                 ただ寂しい音が受話器から聞こえてくる                  私はまた、元いた場所に戻った                 もう、来ないと分かっていても・・・                     私は待ち続けた・・・                         ・                         ・                         ・                         ・                         ・                      お正月・・・                  浩平から、予期せぬ電話がかかってきた                 ”二人だけのクリスマスをやり直そう”                      私は嬉しかった                浩平からの誘いに、私はすぐに了承すると身支度を始めた                   どんな飾り付けがされてるんだろう?                   私は、約束の時間前に学校に到着した          そして、浩平は案の定遅れてやってくると、”悪い悪い”と言って走って来る                   私は、浩平に手を引かれて教室に向かう                  私達は、真っ暗な教室の中へ入っていく                     浩平が私の手を強く握る・・・                一瞬戸惑ったが、私も浩平の手を強く握り返した                   すると、浩平は私の手を振り解き               それと同時に、思いっきり壁を叩いたような音が響いた                          カチッ                        電気がつく・・・                          あれ・・・                        浩平じゃ・・・無い・・・                                 何が起きたの?                    そこには、クラスメイトの男の子がいて・・・                   周りを見渡すと、浩平は教室から出ようとしている                           私は、状況も理解できないまま教室から出て行こうとする浩平に向かって呼びかけた・・・                         「・・・浩平?」                  浩平は、私の呼びかけに答える間もなく、教室を飛び出した                          「浩平!!」                 私は、体を押さえつけている手を払って、教室を飛び出した                        私は、裏切られた・・・                      ずっと、信じていた浩平に・・・                     それでも、私は浩平に会いたかった                      どんなに、裏切られても・・・                         浩平が好きだから・・・                         はぁ・・・はぁ・・・              教室から、下足箱までを全力で走ったおかげで、息が切れてしまった                      でも・・・私はそこで見つけた                        私が大好きな人を・・・                            「浩平」                       「置いて行っちゃうなんて酷いよ」                             「寒いね」                      「ほら、はぁーーっ、・・・て」                       浩平は・・・つらそうだった・・・                     私は、少しでも場を和ませようとした                           ”別れよう”                           待っていたはずの言葉・・・                       でも・・・とても、悲しかった・・・                               浩平の背中に寄りかかる・・・                                                       すると、浩平は振り返って、私を押しのけて怒鳴った                                        ”俺はメチャクチャやったんだぞ!!”                         そう・・・でも、私は・・・                       「私は・・・浩平でないとダメなんだ」                      今度は・・・恥ずかしくても逃げない・・・                                             「やっぱり浩平でないとダメなんだよ」                          私は、もう一度繰り返した                             そして・・・                      ”俺も長森じゃなきゃ駄目だと思う・・・”                               ・                               ・                               ・                               ・                               ・                      その日は、浩平と放課後に遊ぶ約束をした                                                              私は、授業中も楽しみで仕方なかった                   部活の集まりがある私は、浩平を先に帰して集会に急いだ                                    集会中も落ち着かず、ただ時間が過ぎて、集会が終わるのが待ち遠しかった                                            でも・・・                          その時、私は思った・・・                     「なんで・・・こんなに嬉しいんだっけ?」             そして、自分の中から何か大事なものが消えていく様な気がして、胸が痛くなった                           分からない・・・                          分からないけど・・・                 そして、私は皆がいるのに涙を止める事ができなかった・・・                              ・                              ・                              ・                              ・                              ・                    私は、部活から帰ると、まっすぐ部屋に向かった                   「私・・・なんで、あんなに泣いたんだろう・・・」                      家に帰ってもその事ばかり考えていた                                            そして、今も続いている胸の痛み・・・                    大切なものを忘れたくない、と言う感覚・・・                         「分からないよ・・・」                        また、涙が溢れてくる・・・                     気付いたら、すでに6時を回っていた・・・                        「少し・・・散歩しよう・・・」                   私は、涙をぬぐうと、気分転換に公園まで歩く事にした                   外は雨で、まるで私の心境みたいだ・・・そう思った                      やがて公園に着くと、男の人が倒れていた                         「あの・・・大丈夫で・・・」                          私は、そこで言葉を失った                  そして、次の瞬間には消えかけていた”大切なもの”が戻ってきた                              「浩平!!」                   私は、傘を捨てて浩平を抱き起こし、彼の家まで送りとどけた                   帰り道、さっきの涙の意味を理解した私は、また・・・泣いてしまった         そして、私がクリスマスに何時間も彼を待っていたように浩平が私を待っていてくれた事がとても嬉しかった                                                  ・                                 ・                                 ・                                 ・                                 ・                                      次の日                          私は、まっすぐ学校へ向かった                                       浩平は、すごく熱があったので、学校へは来れないと分かっていたから                   おかげで、いつもでは考えられないような時間に登校する事ができた                         私は苦笑いしながら教室に向かった・・・                       その日の授業はいつにも増して、つまらないものだった                        今日は、授業中ずっと浩平のことばかり考えている                              ちゃんと寝てるかな?                           ちゃんとご飯食べて、薬飲んだかな?                                 駄目だ・・・                               授業に集中できない                                「はぁ・・・」                      私は、ため息をつくと、先生に具合が悪いので帰っても言いか聞いた                      先生は、特に疑う事も無く「お大事に」とだけ言って私を帰してくれた                             「初めてサボっちゃった・・・」                         一度、振り返り、校舎を見て私は、浩平の家に向かった                                                     嫌な予感が的中した                              浩平は、何故か床で寝ていた                         私は、またため息をつくと、浩平をベッドまで運んだ                           そして、浩平の寝顔を見ながら時間をつぶした                                                        気が付くと、浩平は目を覚ましていた                              「浩平・・・気が付いた・・・?」                            浩平は、私の言葉の答えとしてか、私に手を差し伸べてきた                              私も、何も言わずに浩平の手を握り返す                       「すごい熱があったんだよ・・・。だいぶ下がったみたいだけど・・・」                               私は、安心しながらそう言った                          そして、浩平の額に手をあてて、熱を測ってみた                            下がってはいるけど、まだまだ熱がある                                     すると、                                   ”なあ、長森”                                 ”・・・キスしていいか”                                     えぇっ!?                               浩平がいきなり変な事を言い出した                                きっと、熱でどうかしてるんだ                                私は、ドキドキしながらそう思った                                 しかし、浩平は諦めない                            私は、恥ずかしくて顔が真っ赤になっていたと思う                         それでも、浩平のことが好きだから、私も一度だけと言って・・・                                   私達はキスをした・・・                          ・・・こんな風に、大好きな浩平とずっと一緒にいられる                                そのときの私はそう思っていた・・・ 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・