このデモはデモに参加した人と、デモを見た人は必ず知っているのであるが、このデモの話は全く中国で報道されてない。だから秘密なのである。この話は日本人の方が知っているかもしれない。私は日本の北京に関するニュースを見たから知っている。それには「犬守れ、北京で2千人デモ 中国メディアは黙殺」とある。asahi.com の2006年11月13日17時10分のニュースであった。

  ニュースの内容は「11日午前10時過ぎ、北京動物園の入り口に犬のぬいぐるみなどを抱きかかえた市民らが続々と集まった。デモは比較的落ち着いた雰囲気で行われ午後2時過ぎに収束した。ただ、公安当局は「不法集会」として近くの道路を封鎖、取材していた記者を含む10人以上を連行して事情を聴くなどしたという」と書かれていて、「現場には数百人の公安が駆けつけるなど緊迫した」とも書かれていた。また報道によると、「集まったのはインターネットを通じた呼びかけに応じた愛犬家たちで、若い世代が目立った」という。

  これだけのデモがあったのだから、北京市民は知っているかと思って、聞いてみたが周りの人は誰も知らない。日本のニュースにも中国のメディアは黙殺とあるが、地元の新聞記者はどこも取材にきていなかったらしい。中国のメディアと言うのも、お上の御用メディアとしては忠実で立派なものである。上のニュースでは記者が拘束されたらしいが、どこかよその記者だったらしい。そんなわけで中国のメディアが黙殺しているのだから北京市民はこのニュースを知るよしもない。

  しかし北京市民が知らないデモであっても、インターネットにデモの呼びかけがあったことは、インターネットを検索してみると分かる。中国語で「北京動物園」と「游行」と二つの単語を入力して検索すると、確かに呼びかけのページが見つかった。「游行」とはデモのことである。11月11日11時に(土曜日)動物園前に集まって、北京市が発令した犬の制限令と大規模な殺犬行動に抗議しようというものであった。
    <http://www.dbjlb.com/bbs/dispbbs.asp?boardid=4&ID=2092>
このページはデモへの呼びかけがあって、その後のデモの写真が載っている。デモの様子もよく見える。しかしデモの後、抗議行動関係のページが次々と閉鎖されている。以前見えたものが見えなくなったり、ペット関係のサイトや掲示板が閉鎖されたり、削除されたりしている。デモ関係の情報の他にはデモの前から養犬管理規定の厳格執行への反対意見などがたくさん載っていたのである。もし上のページが見えないなら、それは当局によって消されたのだろう。

    <http://www.killbt.com/showthread.php?t=3634>
このページのタイトルは《“不要再殺狗”抗議活動 北京封鎖信息》と言うもので狗は犬のことで、信息は情報のことで、情報が封鎖されていることが本当だと分かる。

抗議がここまで大きくなったのは、違反犬の摘発の為に、部屋に入って調べて没収するというニュースが広がったからである。摘発されたら犬は殺されしてしまうに違いないと、愛犬家達が危機を感じたのだろう。それでデモに参加して抗議するように回状が回った。

    <http://news.tom.com/2006-11-03/000N/05423746.html>
  このニュースのタイトルには明らかに入戸して違法犬の徹底的な調査が始まったと書かれている。日本ならば入戸するには戸主の承諾がいるとか、捜査令状が必要だとかいろいろ制限があるが、中国の場合戸主の承諾がなくても入戸できるのだろうか。入戸を拒否したらどうなるのか。拒否したら処罰されると言う信息(情報)もあった。

  情報が消されていく一方で、後公安からのニュースが多くなった。愛犬家達の誤解を解かなければと思ったのか、言い訳をする必要があると思ったらしい。それで警察当局からのニュースが増えたのであるが、中国ではネット上で同じ情報がコピーさて増殖するから、この同じニュースがどっと増殖した。

  その警察側の言い訳は、入戸は宣伝の為のものであって、調査没収の為のものではないと言う主張である。他にも法に拠って犬を没収するのは“虐待殺狗”することではないとか、今回の重点専門執行は“打狗”の為のものではないと言う言い訳もあった。“打狗”の意味は捕まえるということらしいのだが、とにかく警察の言い方によれば犬の没収の為ではないが、宣伝の為であっても警察が部屋には入ってくるのは確からしい。

  問題はデモのきっかけが愛犬家達の誤解であったのかどうかである。実は11日のデモの前の10月末に、犬の取り締まりの為の、それはそれは立派な重点専門執行計画、つまり「養犬管理専頂整治工作を展開する為の方案」が発表されていた。養犬管理専頂整治工作領導小組弁公室という立派な組織が10月26日に発表している。漢字数にして5000字以上にも及ぶなかなか立派な行動計画である。
   http://www.sun-east.com/showtopic.asp?TOPIC_ID=105351&Forum_id=15&page=

  実は、この「養犬管理専頂・・・・・・・の方案」は個人の掲示板のようなページに載っていたのもので転載である。警察内部の文書かもしれない。掲示板に書いた人物は、以前書いた文章が消されてしまたが、どうしたことかと言っている。当局に都合が悪い意見を書いたので、勝手に消されたしまたのかもしれない。しかしこの「養犬管理専頂・・・・・・・の方案」の内容はよく見える。

  この方案の中には、どういう組織で工作を進めるか、解決すべき重点目標は何かなど事細かに書かれている。重点ターゲットは九種類の犬に分類されていて、その第一の最大のターゲットは、大型犬と気性が激しい犬である。

また、中国人の好きな数字を頭につけたスローガンも上手に盛り込まれている。すな  わち四つの100%、三つの没有、二つの基本解決、一つの明かな減少である。四つの100%の一つは、犬を飼っている家に行って、宣伝を100%行うと言うのがある。三つの没有は市内から大型犬、気性が激しい犬、一戸で二匹目以上の犬を無くすというものである。

  “工作”の実行段階に付いては三段階に分けて説明している。第一段階は組織作りとか調査とか宣伝とか、登録していない犬を登録させるなどの段階であるらしい。この一部には居民委員会と民警が深く養犬居民中に入って問題を炙り出すようなことが書いてある。

  第二段階は執行検査段階としている。11月7日から11月30日までである。その中を第一戦役から第七戦役までに段階を分けている。まさに戦闘体制である、第三段階はこの行動を総括して新しく対策を定める為の段階らしい。12月1日から16日までである。

問題は、デモのきっかけが愛犬家達の誤解であったのかどうかであるが、確かに「養犬管理専頂・・・・・・・の方案」には入戸して犬を調査没収するとは書かれていない。しかし今回の養犬管理の執行が“戦役”にも例えられるくらい徹底的なものであると思えるし、実際に警官は入戸してくるらしい。だから愛犬家達の誤解であったとは言えない。それともあの文章は威勢がいいだけの作文だったのだろうか。

  養犬管理の執行の目的には、法に拠って、科学的に、文明的な(道徳的とか礼儀正しいとか)養犬の和諧社会(調和の取れた社会)を作るのが目的と書かれていて、それを実現する為にはどうしても、大型犬、気性の激しい犬を北京市から抹殺することが必要らしいのだが、その最大のターゲットの定義が全く書かれていない。以前は型犬の定義を35cm以上としていたが、最近の官側の文書から35cmの文字が消えてしまったようである。また気性が激しい犬の定義が全く分からない。一方、北京市のページにはチャウチャウ、チベット犬、シェパード、シベリアンハスキー、秋田犬、ポインター、シェットランド・シープドッグ、ボルゾイ、ブルドック、セントバーナードなどの41種の犬が、市内の重点区(と言っても市街地の全部が含まれる)では禁止と書いてはある。何故かゴールデンリトリバーは大型犬なのだがこのリストには載っていない。大型であっても気性が激しくないからいいのかな? でも別の情報ではゴールデンリトリバーは35cm以上になるから違反になるという見方もあった。とにかく大型犬、気性の激しい犬を取り締まると言ってもその定義がはっきりしないのである。

  更にデモ後に出した言い訳文書の中に、没収した犬の処分について書かれた部分がある。農業局が発表しているものであるが、没収した犬で7日以内に引き取り手が居ない犬は、国際習慣に従って処分すると書かれている。殺し方に国際習慣が有るのか無いのか知らないが、このように書いてあるといかにもグローバルスタンダードに従っているように聞こえるが、7日を過ぎたら処分するのは国際習慣なんだろうか。引き取り手が無い場合とあるが、市区から大型犬、気性の激しい犬、二匹目以上の犬を徹底的に無くすと言っているのだから、そのような犬を引き取れるはずが無いのではなかろうか。法に拠る犬の没収は絶対に“虐待殺狗行為”ではないと、当局は言っているが、“虐待”ではないとしても必然的に“殺狗行為”に導かれる。抹殺には間違いない。

  デモ後に当局が出した言い訳文書では、ネットに間違った見方が流れていると言っていて、ネットによって愛犬家の意見が広がっていのを知っている。愛犬家によるデモへの参化の呼びかけだけではなく、「科学的ではない、法がいいかげんである、民主的ではない、人道的ではない」と言う意見が広がっているのもよく知っている。だからデモの事実を隠すと同時に、上のような意見や、警察に対する不満、ひいては政治体制への批判の広がりを、ネットから消してしまいたいらしい。それで多くのページを閉鎖してしまった。

  なおこの犬狩りがオリンピックに向けて犬を減らしていく計画に沿ったものだと言う見方がある。この話が本当かどうかは分からない。単なる噂さかもしれないし、本当の目的はそれかもしれない。

  もう一つの見方であるが、当局は民衆の意見に押されて、犬の高さ制限35cmを引っ込めたかもしれない。最近の官側文書に35cmの制限を言わなくなったように見える。大型犬が35cm以上である科学的根拠を示せないからだろう。しかし相変わらず、大型犬の市街地からの排除(=抹殺)は犬狩計画の第一目標になっている。それでも違反のデモでも逮捕者がでなかったらしいのは、市民の意見を完全に抑え込むことは出来ない状況なのかもしれない。デモは禁止で違法である。にもかかわらず逮捕者までは出なかったらしい。


北京の秘密の「犬を殺すな」デモ