ハムを目指して


1958年4月、18才のひとりの青年(もとラジオ少年)が社会にとびたった。

入社式とその後の研修のために大阪に出張した青年は、約1週間の独身寮生活を体験した。

その独身寮でJA3AMB保科氏と運命的な出会いをした。

ハムになることを心にきめた青年は、東京に勤務することがきまると税込み8,600円の月給のすべてをそそぎ込んで9球スーパーの制作に取り組んだ。

春日無線のコイルキットKR−42、不朽の名作といわれたIFTであるT−11、菊水の扇形ダイアル、回路もデザインも9R−42Jをそっくり真似て作った。

但し、ケースには手が届かなかったのでフロントパネルを三角板で補強しただけのシャーシーむき出しの受信機である。

その当時、新入社員で「文集」を作ろうという声があがった。

青年は何のためらいもなくハムに関する原稿を投稿した。

以下は、入社の年の9月に発行された文集に掲載された原稿のコピーである。

(この文集は平成10年1月、家屋の建て替えのため引越し荷物の整理しているとき偶然物置から発見された文集である。茶色く変色しページをめくるとぱらぱらと製本がくずれ原型をとどめなくなるほどいたんでいたが、私のページだけは損傷をまぬがれていた。)

 青年は、その年(昭和33年)の9月の国家試験(受験番号40156)で2アマを受験した。

1次試験 9月9日(火) 前9:30 無線実験

2次試験 9月1日(水) 前10:00 電波法規

試験会場 東京都中野区江古田4−1662 中野高等無線学校

合格証書は、昭和33年10月10日付で郵送されてきた。

無線局免許申請は12月11日、予備免許は12月24日に発給された。

落成検査は翌年昭和34年6月16日実施され、無事合格、3.5、7MHz、10Wのアマチュア無線局JA1COWが誕生した。

「ハムを目指して」

僕が初めてラジオというものにふれたのは確か中学1年の時のことであった。

夏休みの宿題で何か工作をださねばならぬという訳で実用的なものをと考えて作ったのが鉱石ラジオであった。今ならゲルマニュームとかトランジスター等というすばらしいものがあるが当時はそんなものは手に入らなかった。いわゆる昔々の鉱石ラジオを作ったのである。自分でコイルを巻き配線した。完成してレシーバーから放送が流れてきた時のうれしさは今でも忘れられない。。一度テレビの音声が受かったことがあるが手を加えてからは、全然聞こえなくなった。鉱石ラジオでテレビ放送が聞けるなんて実にすばらしいものである。僕は未だにテレビ放送を受信できる鉱石ラジオの記事を読んだ事がない。あのときのデータでもとっておいたらどんなに価値があるかもしれない(但し僕にとってだけ)。後に放送部に入り、学校放送の係りをやった事があった。自分で拡声器を調整して各教室に放送を流すのも中学生の僕にとっては実に楽しいものであった。高校に入るや、急にさわがれだしたHiFi(高忠実度再生装置)に興味をもち出し、正月休みにアルバイトをやりプレーヤーを作った。

 小さい時からほしいとおもっていたプレーヤーが手に入ったのである。それから幾日かの間は学校から帰るやレコードばかりかけているので家の者が心配したほどである。
 そうこうしている内にある雑誌でハムというものを知った。

ハムとはアマチュア無線家の事である。自分で送信機を作って電波で話をするのである。これは日本国内にとどまらず全世界の仲間と話をする事ができるのである。皆さんの中には映画「海と空の間に」を見た方が在るかも知れません。あの映画はアマチュア無線家の活躍で尊い人命が助かるという物語です。つい最近では諫早の水害の時のハムの活躍があります。各新聞に大々的に報じられておりましたから皆さんもよくご存知のことと思います。南極越冬隊に留守家族の声を聞かせてあげられるのもむろんハムの活躍のおかげです。

普段は自分の趣味で、非常の時は公共の為に労力をおしまずに電波を送受するハム、今僕はこのハムになるべく努力をしているのである。

 ハムは短波を利用しているので普通のラジオでは聞くことができません。2バンド以上のラジオが必要なのです。今僕は会社から帰ると毎日この短波受信機の制作に熱中しています。

一日も早くハムに成る為に!そしてわれわれの文集が完成する頃には僕の受信機も完成してハムの楽しそうなラグチュー(おしゃべり)に耳を傾けていることでしょう。今僕は眠そうな目をこすりながらこんな事を口ずさんでおります。

「CQ CQCQ こちらはJA1○△□、どなたかお聞きのアマチュア無線局ございましたらQSOをお願いいたします。こちらはJA1○△□受信します。どうぞ」

 半田ごてを持っている時の僕はまるで天国にでもいるような何ともいえぬうれしさ、楽しさの中にうずもれています。同じ趣味のお方が居りましたらお便りをくださいますようお願いいたします。